『成瀬は天下を取りにいく』は、普通であることや空気を読むことがなんとなく求められる日常のなかで、まるでそんなものを軽々と飛び越えていく主人公・成瀬あかりの存在感が強烈に光る作品です。読み始めるとまず、その奇天烈さに驚かされます。けれど、読み進めるほどに「変わっている」だけでは片づけられない魅力が見えてきて、気づけば成瀬から目が離せなくなっていました。
あらすじ
舞台は滋賀県大津市。閉店を控えた西武大津店に毎日通い、ローカル番組に映ることを目指す中学生・成瀬あかり。周囲から見れば少しどころではなく変わった行動ですが、成瀬本人はいたって本気です。しかもその行動には、いつも成瀬なりの筋が通っています。
幼なじみの島崎みゆきは、そんな成瀬に振り回されながらも、彼女の言動をいちばん近くで見つめていきます。受験、進路、部活動、人間関係――誰もが「普通」に悩みながら成長していく時期に、成瀬は成瀬らしく、自分だけのやり方で前へ進んでいく。その姿が、周囲の人たちの価値観を少しずつ揺らしていく物語です。
感想
この作品のいちばんの魅力は、やはり成瀬の奇天烈さだと思います。突飛なことを言い、思い立ったらすぐ行動し、周囲がどう思うかをあまり気にしない。けれどそれが無神経なのではなく、自分の中の基準をしっかり持っているからこその強さとして描かれているのが印象的でした。
読んでいて何度も感じたのは、「こんなふうに生きられたらどれだけ楽だろう」という、少しのうらやましさです。人の目を気にして、浮かないように、変に思われないようにと立ち回ってしまうことは多いものです。でも成瀬は、そうした“見られ方”に自分を合わせません。自分が面白いと思うこと、自分がやりたいことに、まっすぐ手を伸ばしていく。その姿は自由で、痛快で、そして眩しいものでした。
一方で、成瀬はただの破天荒なキャラクターではありません。周囲の人の視点を通して描かれることで、彼女の言動の裏にある誠実さや純粋さも見えてきます。だからこそ笑えるだけでは終わらず、読後には不思議とあたたかい気持ちが残りました。成瀬のようにはなれなくても、「もう少し自分の好きなように生きてもいいのかもしれない」と思わせてくれる力があります。
『成瀬は天下を取りにいく』は、個性的な主人公を楽しむ作品であると同時に、自分らしさとは何かをやさしく問いかけてくる物語でした。成瀬のまっすぐさに笑って、驚いて、少し救われる。そんな読書体験ができる一冊です。
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